航空機器対応小型で効率的な安全クラッチ
軽量化、小型化、効率化といった傾向は、近年、航空宇宙産業に革命をもたらしています。先端素材と最新の生産技術を駆使したスマート軽量構造は、新たな設計・開発の理念です。このような状況の中、ドイツのクリンゲンベルグに本社を置く安全クラッチメーカー、R+Wは、航空業界向けの新しいハイテク部品の開発に取り組んでいます。小型で強力な安全クラッチによって設置スペースの大小を問わず、高精度でトルク過負荷から保護することを実現しています。
航空機・航空機器の大手メーカーから、輸送・サービス業務用の移動キャビンに搭載されるスマートリフト向け安全クラッチについて問い合わせがありました。目標は、コンパクトな設計による質量と慣性モーメントの削減です。航空機のモデルによって異なりますが、全長30mm以下、総重量200g以下で、40~135N・mの遮断トルクが必要です。最終的には、この安全クラッチを最小限のスペースでシザーリフトに組み込むことになります。この航空機メーカーは、安全クラッチメーカーであるR+Wの革新的な軽量安全クラッチを選択しました。MSLPタイプの呼びトルク30が採用され、お客様の更なる条件に対応すべく仕様が変更されました。この装置はあらゆる気象条件下で使用できるように、液体や汚れから保護する密閉設計で、トルク過負荷からの保護も果たすことが必要でした。
軽量安全クラッチ MSLシリーズ
R+Wが技術系大学と共同で開発したMSLシリーズは、このような厳しい要求の用途に理想的な製品です。先端素材と特殊塗料を組み合わせた、軽量かつ小型で強力な設計。ボールソケットの原理により、ゼロバックラッシで安全に作動します。先端素材と特殊塗料によりMSKシリーズに比べて最大60%の軽量化を実現しています。例えば、MSLPの呼びトルク30は、トルク調整範囲は最大135N・m、質量200g、慣性モーメント0.1×10-3kg・m2です。本体とフランジの特殊加工により、繰り返し精度+/-5%でミリ秒以内に反応できる安全クラッチを実現しています。MSLシリーズの安全クラッチは、許容トルクと寸法および質量の比率が世界市場においても他に類を見ないものとなっています。
精度向上のためのモジュール設計
特殊素材に加え、それぞれの部品をスマートに圧縮することで、寿命や精度に影響を与えることなく、さらなる軽量化を実現しました。R+Wのために開発された特殊な皿バネは、ボールソケットの原理を進化させ、トルクを最大50%強化しました。ばね荷重を利用した機構により、お客様が求める、半永久的なゼロバックラッシかつ剛性の高いカップリングが完成しました。クラッチボールは、円錐状のソケットに固定されています。特殊な特性曲線を持つ皿バネにより、瞬時に、正確にトルク過負荷から保護することを可能にします。設定した遮断トルクを超えると、安全クラッチの出番です。クラッチボールは元の位置を離れ、トルクの流れが遮断され、残留摩擦がゼロになります。クラッチボールは、対応するソケットに固定されている間は動きません。これにより、予め設定された遮断トルクに達していない、通常稼働中はクラッチボールが摩耗しないようになっています。遮断時にばね荷重は低下し、移動リングも軽量なため、摩耗は最小限にとどまります。他の摩擦クラッチに発生するような環境要因による遮断トルク値の変化は論外です。
4タイプの遮断方法
現在MSL軽量シリーズは標準仕様でMSLN、MSLP、MSL2、MSLE、MELSLの5つのタイプを取り揃えております。お客様は取り付け方法に応じて、1軸(プーリやスプロケットなどに接続)用のクランプまたはキー締結、2軸用のクランプハブを選択可能で、後者はミスアライメントも許容します。また剛性の高い金属ベローズ形カップリングか、振動減衰性の高いエラストマ形カップリングのいずれかを選択できます。どのタイプも自動再連結対応で、原点復帰型またはインデックス型をお選びいただけます。
原点復帰型(W型)は、特殊な配列のソケットが本体側に加工されており、360°回転すると元の位置に戻ります。クラッチボールとソケットの数は、カップリングが安全に機能し、再連結後も摩耗しないように設計されています。これにより、ドライブトレインは完全に同じ速度で回転します。インデックス型(D型)も同じ原理で動作しますが、ソケットは等間隔に配置されているので、再連結は60°ごと6か所の位置で行われます。お客様の条件に応じて、工場にて連結位置を30°、45°、90°、120°に変更することも可能です。各タイプには呼びトルク30、60、150、300のサイズがあります。遮断トルクの設定は、5~700N・mまでさまざまです。
特殊仕様も簡単に
また、安全クラッチをニーズに合わせて個別に調整することもできます。MSLシリーズはモジュール式のため、さまざまな組み合わせが可能です。すべての安全クラッチは、クリンゲンベルク工場で指定の遮断トルク値に設定します。新しい構造により、遮断トルク値を現場で変更することもできます。トルク範囲は調整リングに目盛りで示されており、設定値を変更する際の目安になります。遮断トルク値を調整しても、製品の機能や性能に変化はありません。
カップリングを、塵埃の多い環境や液体、強力な洗浄剤などと接触する可能性のある環境で使用する場合に備え、R+Wは内部部品を密閉することを可能にしました。これは同時に、カップリングからグリースが漏れないようにする機能も果たします。この設計では、全部品がハウジングに完全に内蔵され、特殊なシールが施されます。特別に開発されたOリングは、カップリング本体に装着され、大きな移動リングで覆います。この製品は、外部からのあらゆる影響から保護し、クリーンルームでも使用できます。
MSLシリーズが新たな基準となる
新しい軽量安全クラッチの開発により、R+Wは駆動技術の新たな標準を打ち立てています。モジュール式の概念と柔軟な設計により、航空宇宙業界のお客様は、個々の用途に求められる条件と最大限の安全性を組み合わせることができます。軽量・小型で強力なMSLシリーズは、安全クラッチの分野に新たな1ページを開き、まったく新しい分野への適用を可能にします。
安全クラッチMSL2:2軸用クランプハブ10~400N・m
- クランプリングおよびISO4762キャップスクリュ
- ゼロバックラッシの安全クラッチと高剛性ベローズによりミスアライメント許容
- 超軽量構造で小さな設置スペース
- MSKシリーズと比較し最大60%軽量化
- トルク50%アップ
- 実証済みのボールソケットで完全なゼロバックラッシ
- 取り付けは容易で、耐久性が高く、メンテナンス不要
- 調整可能なトルク
- 自動再連結(W型/D型選択可能)
- 周囲温度-30~+100°C